いしいひさいち「バイトくん」舞台探訪(2) @大阪市東淀川区

前回から2ヶ月経っちゃいました。



いしいひさいちさんのライフワークと言える「バイトくん」。

主要登場人物の(右から)キクチ(バイトくん)、スズキ、クボらはアパート「仲野荘」に住んでいる設定です。ひどい振り仮名だ。
彼らは「東淀川大学」に通っています。

バイトくん=菊池久彦には初期は本名の設定がありませんでした。
「バイトくん2 東淀川ひん民共和国」(1979年、プレイガイドジャーナル社)*1の目次ページにはご丁寧にこのように「大阪市東淀川区下新庄4丁目」と住所が書かれており、作中でも度々下新庄などの地名が登場します。同地に同名のアパートがあり、そのモデルとなっています。


いしいさんは1951年9月2日岡山県玉野市生まれ。1970年4月関西大学社会学部に入学、仲野荘に下宿。関大漫画同好会に入会。1972年4月よりバイトくん連載開始。
仲野荘にいつまで住んでいたかは分かりませんが、1976年3月卒業、1980年時点では吹田市*21984年時点では岡山市*3に住んでいます。


ウィキペディアのバイトくんの項目でつい最近まで「同名の建物が東淀川区下新庄4丁目に実在した」と過去形で書かれていたり*4、既に仲野荘が無くなったと思っている人も居るようですが、実は健在なのです。最寄り駅は前回紹介した、阪急千里線下新庄駅(近々高架化されるので、探訪はお早めに)。
きーぼー堂2011-4-7 いしいひさいち「バイトくん」舞台探訪 阪急下新庄駅@大阪市東淀川区



2011年4月2日撮影
これが仲野荘!とっくに無くなっていると思っていました。
実際は形も大きさも結構違うんですね。道が狭くて引きが取れません。


こうして仲野荘が残っていると、
「菊池君は今でも下新庄4丁目に住んでるよ
 卒業できずにまだ仲野荘に住んでるのは内緒だ」*5
なんて言われると何か納得してしまいます。バイトくんの世界は今も続いています。


いしいさんの推定では居住当時築約50年(=1920・大正9年頃)。作中設定では室戸台風(1934・昭和9年)に耐えた、という事になっており、それを鵜呑みにすれば現在築77年以上。本当の築年数が気になりますね〜。
バイトくんから得られる手がかりではかなり辿り着くのが難しい場所にあります。もし見つけても、住人に迷惑をかけないようにして下さい。


いしいひさいちFC仲野荘眠田直さんが1981年に撮影した仲野荘の写真が掲載されています。その頃から有名だったとは!



仲野荘の欠点の一つとなっている貨物線。
実際に、仲野荘のすぐ近くを城東貨物線が通っています。


「バイトくんブックス7 ばかな男」(1999年、チャンネルゼロ)の表紙イラスト。
仲野荘の屋根の上から夕焼けと貨物列車を眺めるクボとスズキ。下に落っこちてるのはキクチか?

仲野荘の西向きの窓から見えるのは夕焼けと城東貨物線でした。
四六時中長い貨物列車がガタゴト走りなかなかの騒音でちょっとした地震ほど揺れます。

「大阪100円生活」より、いしいさんの回想。
今は日に十数本しか貨物列車は走っていないのですが、昔はそんなに多かったのでしょうか。

2011年4月5日撮影
表紙イラストで「庫」の字のある建物は、実際は「延原倉庫」です。左下から右へ線路が延びています。

2011年4月2日撮影
神崎川の土手から。左側の道を奥へ進んで行けば、仲野荘へ近づけます。奥に新幹線の高架。バイトくんの世界には似合わない高層マンションが出現しています。

2011年4月2日撮影 先の写真の場所から後ろを見れば神崎川(撮影順序は逆だけど)。橋梁は複線化を見越したスペースがあり、近い将来JRおおさか東線として旅客線化される際に活用されます。
下新庄4丁目は、北を神崎川、東を阪急千里線、西を城東貨物線、南を東海道新幹線と囲まれた四角形になっています。

2010年9月30日撮影
DD51ディーゼル機関車は2011年3月11日限りで引退し、役目は電気機関車に受け継がれました。いしいさんの住んでいた1970年前後には蒸気機関車も見られたはずです。DD51が引退するとは知らなかったので、こんな写真しか有りません・・・。


「大阪100円生活」収録のバイトくん通信29の写真は、東海道新幹線との交点の北側のこの場所で写された物です。作中では仲野荘のそばを新幹線が通っているという話題は何故か出てきませんが、新幹線の高架らしい物が描かれた事はあります。
城東貨物線の無煙化は1971年3月なので、いしいさんが住み始めた頃には蒸気機関車も見られたはずです。

画面左が仲野荘方面。結構遅いスピードで走っています。


右:2005年以来新刊が出ていないバイトくんですが、まだまだ終わってはいません。朝日新聞2011年3月17日の「ののちゃん」を乗っ取って新作が掲載されていました。学級新聞という形でののちゃんの世界を離れたネタをやる事がたまにあります。割符ではあるまい・・・。
大学4回生になってバイトくんを読むと、就職活動ネタを面白く読めましたよ。


左:「バイトくん2 東淀川ひん民共和国」(1979年)収録の、一部読者の間で語り草となっている一本。最新の双葉文庫版には未収録。豊津、吹田、下新庄って、千里線を知らない人には何の事だか分かりませんよw
「トヨツのあられ」は「とよすのあられ」を思い出しているわけで、これまた関西ローカルネタです。
とよす - Wikipedia



三人は関大前から乗ったんだな。


参考
70年代研究/正確このうえない仲野荘 (わしらの時代・仲野荘の思いで)
いしいひさいちFC仲野荘 いしいひさいち関連雑誌・新聞記事/「いしいひさいちは貧しさといじましさをひらきなおって大肯定しちまった男じゃ!」 HOT DOG PRESS 80年NO.8 2月号


*1:ちなみに1巻は77年11月10日初版発行で、79年9月28日第15刷発行と好調に増刷されているhttp://www.geocities.jp/formula_10000/ZoukiFiles/ishii/ishii.html

*2:朝日新聞1980年1月8日 『ナゾの素顔を探ると』 「タブチくん」のいしいひさいち

*3:「バイトくん全集 1 屋根の上の午睡」(1984年、チャンネルゼロ)作者プロフィール

*4:ウィキペディアおじゃまんが山田くんのアニメ版の解説に「一連の『東淀川シリーズ』を始めとして、原作となった作品群はどれも大阪市東淀川区大桐3丁目が舞台であり、当作品もそれを踏襲する予定だったが、製作が東京のため放送時には、東京の「東江戸川三丁目」という架空の地名に変更された。」と書いてありますが、いしいひさいちFCに問い合わせた所、大桐が舞台の作品は無く間違いだそうです

*5:【東淀川区】菅原・下新庄スレ PART1より