森田季節「ともだち同盟」舞台探訪@山陽電鉄滝の茶屋駅(2)

阪急甲陽園駅1号線2年ぶり使用再開、2号線は廃止 - きーぼー堂が書き終わりました。

その1に続き森田季節さんの「ともだち同盟」の重要な舞台、神戸市垂水区滝の茶屋駅滝の茶屋駅前商店街の舞台探訪レポートです。駅は8月24・26日、駅の外は24日に探訪しました。

滝の茶屋駅森田季節さんのデビュー作「ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート」の舞台の名谷あじさい公園まで直線距離で約2kmで一応最寄り駅ですが、不便過ぎるので普通は垂水駅からバスを使います。

下り(姫路方面行き)ホームの向こうに見える海。与謝蕪村が「春の海 終日(ひねもす) のたりのたりかな」と詠んだのはこの辺りだそうです。
神戸新聞 音を見る 春の章(4)ひねもす夕なぎ、まどろんで ウェブ魚拓
滝の茶屋駅の動画あり
駅が西国街道(現在の国道2号線)上の路面停留場だった大正〜昭和初期は2間(約3.6m)の道路を隔てて海と近接し(埋立地は無かった)、台風の時には海岸の擁壁を越えた波が電車の上から滝のように降って来たといいます*1

駅の下には駅名と「垂水」の地名の元となり、更には万葉集に収められている志貴皇子の「石ばしる 垂水の上の さわらびの 萌えいずる春に なりにけるかも」の句の垂水=滝の名残という「白滝」があります。その辺りは前回記事に少し追記しました。

「さて、少し買い物をしていきますかね」
駅の北側の坂には「滝の茶屋駅前商店街」と書かれた青いアーチがかかっている。けれど、その両側には店舗らしきものはなくて、ありふれたつくりの住宅ばかりだった。廃業してしまっているのかと思ったが、そもそも何十年も前からここには店なんてものはないようだ。


駅から商店街の方を見たところ。

アーチの上の部分は明石海峡大橋をモチーフにしていました。

「両側には店舗らしきものはなくて」でも無く道の右側は喫茶店洋品店、リフォーム店(ワークショップ)、ドッグサロンなど店舗がありますが、左側は普通の住宅ばかり。すぐ突き当たりになり確かに初めての人は「これぽっちで商店街・・・?」と思うでしょう。

看板に偽りありだろとそのまま坂をあがっていくと、すぐに突き当たりになる。そこから一本ずれた筋から商店街が始まっていた。


あっという間に突き当たり。突き当たりから右に行くといくら進んでも商店街らしい筋は現れず、戻って左へ行って角を右に曲がると商店街の続きがありました(下調べもせず地図も持たずに探訪していたもので)。

大半の店はシャッターが下ろされて静まりかえっている。よく見ると「休業日 日曜日」の表示のあるシャッターが並んでいた。開いているのはパン屋とチェーン店のスーパーぐらいのもので、そのスーパーに千里は入っていく。


やっと商店街らしくなって来ましたが、日曜日でも無いのにシャッターの閉まっている店ばかり・・・。

商店街の終盤まで行くと「パン屋とチェーン店のスーパー」のある場所に着きます。


千里が買い物をしたのはトーホー滝の茶屋店。トーホーストアは神戸市を中心に兵庫県40店、福岡県5店があり、神戸地区第1号店は垂水店(昭和38年4月開店、昭和46年12月廃止)だった*2そうです。
森田季節さんが自身のブログでトーホーと東方をかけてネタにしています。
森田電鉄2010-4-10 言葉辞典 幻想郷三重県説・兵庫県説

[,left]「開いているのはパン屋とチェーン店のスーパーぐらい」と書かれたパン屋はトーホー滝の茶屋店の向かいの「リストワール」と思われます。定休日はありません。
後から分かりましたが、滝の茶屋駅前商店街は映画「ホームレス中学生」(2008年)のロケ地にもなっているようです。参考:キラキラ☆ハッピーライフ 2008年最後のホム中ロケ地巡りin神戸(12月30日)


上記ブログによればこの辺りが「ホームレス中学生」に出ているらしい。たまたま写していました。
追記:9月20日に鑑賞、確認しました。滝の茶屋駅も少し登場します。主要ロケ地は大阪府吹田市

商店街にあった由緒正しそうな地名。東垂水小を過ぎて王居殿第五住宅の辺りまで上って景色を見てから駅へ引き返しました。

「着きましたよ」
千里が駅のほうに戻っていくと、いつの間にか目の前に目的地があった。どこにでもありそうな一軒家が千里の住処だった。すぐそばは駅のはずなのに、どの道を通ってきたかもう弥刀は思い出せない。

千里の家の場所は駅の方というだけでヒント無し。それでも、この街が千里の地元かと思うと感慨深いです。おっと朝日も。


アーチと駅の隙間に海がのぞいています。商店街の活気の割にはアーチが新しい。清の放浪記http://www.ntv.co.jp/dash/sei/ '99「関西散財」には99年当時のアーチの写真が掲載されています。 ウェブ魚拓

駅舎に入ると現れる階段。滝の茶屋駅は1969(昭和44)年に橋上駅舎化されました。

18段の階段を上ると改札口。無人駅でも無いのに駅員の姿はありませんでした。ここからホームに行くには長い階段を下りる必要があります。冷房が無くて暑い。
「改札やホームが道路より高い位置にあるから、必ず階段を一度は上らないと使えない。」とP53に描写されていますが、エレベーターもエスカレーターも無いのでお年寄りや車椅子・ベビーカー利用者にとっては困った駅です。

そのためバリアフリー化工事が7月20日より始められていて、訪れた時は工事の真っ最中でした(工事のお知らせ)。来年1月31日までの予定。ここにどうやってエレベーターを設置するのでしょうか。右上に商店街のアーチが見えています。

上りホーム階段の海側外壁が撤去されていました。改築後はこちらに窓を作って欲しい。


山側の上り(三宮方面行き)ホームに迫る住宅地。

上りホームには、淡路島と明石海峡大橋をバックに海上を飛ぶ山陽3000系に乗る子供たちが描かれた、実に滝の茶屋駅らしい絵があります。最新の5000系の一世代前の3000系なので90年代以前の絵かと思いましたが、神戸市立垂水東中学校の生徒が2004年6月に制作したようです。

3000系実車との共演。「3030」は実在します。

滝の茶屋のホームは夏だというのに海からの風で、どこか寒々としていた。橙色の阪神の車両が弥刀の横を駆け抜ける。この時間帯だと月見山にすら停まる特急がここには停まらない。

P65より、千里の家を後にした弥刀。

弥刀が月見山駅に帰るために立っていた上りホームです。弥刀は後日反対側の下りホームに立つ事になります。

滝の茶屋駅を通過する阪神8000系梅田行き直通特急阪神8000系は後にP111の垂水駅の場面で系列名まで示されて登場します。
P29で「(滝の茶屋駅月見山駅は)ともにラッシュ時間帯には特急が停まるのだ。」とあるので月見山駅特急終日停車になった2009年3月ダイヤ改正以前が念頭に置かれているのかと思いました。


するとP65の「この時間帯だと月見山にすら停まる特急がここ(滝の茶屋)には停まらない」で混乱する事になりましたが、ここは「月見山にすら停まる特急がこの時間帯は滝の茶屋には停まらない」、先のP29が「(月見山は普段から特急停車駅だが)ラッシュ時間帯には月見山と滝の茶屋ともに特急が停まるようになる」と解釈すれば現在のダイヤで問題ありません。


P53で千里は滝の茶屋駅について「これでも朝は特急が停まります。」としか言っていませんが、実際は滝の茶屋駅は朝=始発から9時半頃の上り直通特急の他に夕方=16時20分頃から終電まで下り直通特急が停車します。P111に「滝の茶屋に特急が停まらない時間帯だったので、待ち合わせは垂水駅のホームにした。」という描写もあり。

なし崩し的に、三人は車内で会うのを一日のルールに定めた。それが古来の慣習だったみたいに。

P28より。弥刀は滝の茶屋駅から、千里、朝日は5つ東の月見山駅から高校の最寄りの高速長田駅まで同じ上り特急に乗り合わせて通学していますが、特急が通常の月見山駅だけでなく滝の茶屋駅にも「ともに」停車しないと三人は車内で会う事が出来ないわけです。


弥刀通学区間の朝夕の直通特急の停車駅は三宮方面に向かって滝の茶屋、山陽須磨月見山、板宿、高速長田。P96の「甘酸っぱい乗車時間は特急二駅わずか五分で終わりになる。」は月見山高速長田の事で駅数も時間も合っています。

追加取材がいつになるかちょっと分かりませんが、次のともだち同盟舞台探訪記事は月見山駅周辺の予定です。取材済みの「原点回帰ウォーカーズ」の記事が先になるかも。

2010-9-25 森田季節「原点回帰ウォーカーズ」舞台探訪@神戸市西区・学園都市駅周辺




関連リンク
既読の方向け
物語三昧〜できればより深く物語を楽しむために 『ともだち同盟』 森田季節著 ここから「どこ」へ向かうのかが楽しみ
「わからなさ」が売り・・・確かに森田作品はわからなさが付き物ですが、だがそれがいい


nonki@rNote - 「ともだち同盟」現地探訪 箕谷駅から
ネタバレは無いので、読む前の予備知識という感じで。



未読の方向け
fsndのブログ    森田季節「ともだち同盟」聖地巡礼
↑私より多くいっぺんにともだち同盟の舞台に行かれていて驚きました。
 Disappear, and say whom 『ともだち同盟』/ 森田季節
↑ともだち同盟のレビューです。この物語で起きた事の本質はトリスタンどうこうでは無く千里の強い自意識にあると。

過去記事
2010-8-21 森田季節「ともだち同盟」舞台探訪@JR関西本線大河原駅
2010-5-27 森田季節「ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート」舞台探訪@神戸市垂水区


9月25日にハヤカワ文庫JAから「不動カリンは一切動ぜず」、10月25日にMF文庫J「不堕落なルイシュ」2巻が刊行、11月にコミック百合姫にて書き下ろしの短編を発表予定との事です。 森田電鉄 不動カリン、表紙公開です