阪急電鉄の前身、箕面有馬電気軌道の開業当時のレールなど


何を今更と思う方も居るでしょうが、レールの断面はこのような形をしています。これは京阪守口市駅前にある京阪電鉄守口車庫跡の碑。

車輪には内側にフランジという出っ張りがあるので、振動やカーブがあっても簡単には脱線しません。

レールには必ず1本に1つ刻印があります。手前のレールの刻印は「50N LD マルS 1974 ⅠⅠ」と読めます。JR新大阪駅隣接の宮原総合運転所で。現役のレールの刻印を観察するのは中々難しい・・・。  引きの画像



磨耗して列車を走らせるには適さなくなったレールは、建材としての強度はまだ十分あるため、かつては多くが切断、曲げ加工をして再利用されました。


溶かして別の物にするにもかなり手間とエネルギーがかかるので、とても効率の良いリサイクル!

淡路駅南側の京都線の踏切。高架化により近い将来踏切は無くなります。

このように古レールが再利用されています。阪急の踏切の古レールは1950〜70年代製の比較的新しい物が多いようですが、

ここには珍しく1927年製がありました。



石橋駅宝塚線ホームの、古レールを2本合わせた柱で造られている上屋(うわや)。ホームの屋根の事を上屋と言います。


こうして見ても分かりにくいかも知れませんが、天井近くでレール断面が出ている部分を見れば一目瞭然です。

十三駅1号線(神戸線三宮方面行き)ホーム改札寄りにある刻印「マルS 75 A 1928 ⅠⅠⅠⅠⅠ」=八幡製鉄所1928年5月製のレール。四隅にトゲの付いたマルの中にSは八幡製鉄所のマーク。Ⅰの数で製造月を表しています。


十三駅は1号線と6号線(京都線河原町方面行き)に古レール造の上屋があります。


2010年10月24日、阪急正雀工場で開催された阪急レールウェイフェスティバルに行って来ました。*1

そこで阪急の前身、箕面有馬電気軌道(現在の宝塚線箕面線)の開業当時の1909年製のレールが展示されていました!

西宮車庫で道路沿いのフェンスとして使われていて、1998年の都市計画道路西宮車庫北線の整備に伴う道路拡張の際に発見されたそうです。発見者は「当時西宮車庫の清掃会社に勤務する阪急電鉄OB社員」。

CARNEGIE 1909 ET IIIII」・・・アメリカのカーネギー鉄鋼会社の1909年5月製を意味します。宝塚線箕面支線は1910年2月22日に竣工、3月10日に営業開始していますが、そのために造られた物です。


外国製のレールは1930(昭和5)年頃まで輸入されていたそうです。

「60」の直後でレールが切れています。

現代のレールとは断面がやや違うようです。

今も西宮車庫(西宮北口駅に隣接)のフェンスには同種のレールが残っているそうなので、探してみました。

南側の道路から見てみると・・・

あった!神戸線が間を通っているので刻印は確認しようがありませんが。


正雀工場の別の場所にも同種のレールが展示されていました。

先のレールは「60」で切れていましたが、こちらはその後に「MAER」とあります。

ET:エドガー・トムソン工場
60:レールの重量/m 60ポンド(27.2kg)
MAER:箕面有馬電気軌道(Minoo Arima Electric Railway)

と説明があります。


こちらはペンキが塗られていませんが、どこから出て来たのでしょう。チョークで刻印をなぞってあります。


実はもっと間近に見られる場所にも開業当時のレールがありました。それは箕面線桜井駅の石橋方面行きホーム。

箕面寄りのこのレールが一番刻印が読みやすいです。

CARNEGIE 1909 ET」がうす〜く見えるのが分かりますか?完全な刻印を知らなければ「何か文字が隠れてるな」程度しか思えないレベル。

「60 MAE」!ここだけペンキが剥がれているのが気になります。このレールから阪急の歴史が始まったんですね。桜井駅は箕面支線の開業1ヶ月後の1910年4月12日に開業しています。


阪急では、十三、石橋、桜井、武庫之荘、芦屋川、王子公園駅に古レール造の上屋の存在が確認されています*2。駅で電車を待つ際、ちょっと観察してみては如何でしょうか。


古レールの刻印の年号は現在の駅への設置時期の目安にはあまりなりません。例えば芦屋川駅には1920年代の刻印の古レールがありますが、調査の結果1957年(昭和32)年に設置された物のようです。古レールで上屋が造られていたのは昭和30年代頃まで?


石橋駅には、どこから来たのか何と1891年7月製と言う大変貴重なレールがあります。
我が人生の垢 阪急電鉄宝塚線 石橋駅の古いレール 26




オマケ:道路併用区間に使用された溝型レール。1949(昭和24)年まで有った阪急北野線(梅田〜北野)の物でしょうか。


古レールのページでは、古レールについて基本から学ぶ事が出来ます。


TAKATAKATAKAさんのブログ「我が人生の垢」は全国各地の古レールの上屋を網羅していてとても参考になり、かなり影響を受けました。阪急、阪神、南海、近鉄阪堺電軌、西武鉄道伊豆箱根鉄道近江鉄道、JR大阪環状線東海道山陽本線阪和線、山手線、長崎本線鹿児島本線などなど膨大な量があります。


阪急電鉄の分はこちらから見られます。


古レール造の上屋は段々と消えゆく運命にあり、早めの観察・記録をお勧めします。




過去記事
2010-09-23 阪急甲陽線で大正・昭和の面影を探す
2010-11-19 大阪駅新乗換通路を見物&工事前と定点対比


撮影日 十三駅:2010年5月28日、石橋・箕面駅:7月26日、淡路駅:11月11日、西宮車庫:11月2日、宮原総合運転所:12月27日 守口車庫跡の碑:2011年1月6日

*1:セキさん、甲山タイガースさん、音子さんと一緒に

*2:武庫之荘駅は自力で新たに見つけましたが、刻印はペンキが厚くて読めず