月光仮面に見る昭和30年代の大阪(1)大阪駅前1


日本初のフィルム撮影による国産連続テレビ映画として名高い「月光仮面」は川内康範原作、宣弘社の制作で昭和33(1958)年2月24日から昭和34(1959)年7月5日にかけてKRテレビ(現・TBS)で放送されました。


最高視聴率67.8%、平均40%代。有名な割に1年4ヶ月程度で放送が終わっているのが意外です。子供が月光仮面のマネをして高所から飛び降りてケガをする事故が頻繁に起こり出し、子供への悪影響と内容の非現実性までマスコミに叩かれ、遂に打ち切られてしまったそうです。*1


第1部 どくろ仮面  全71回 月〜土10分の帯番組 
第2部 バラダイ王国の秘宝 全21回 以降日曜30分番組
第3部 マンモスコング   全11回
第4部 幽霊党の逆襲    全13回
第5部 その復讐に手を出すな 全14回



音声はアニメのようにアフレコ。第1部は未熟さが目立ち、更に第1話を含む7話分のフィルムが欠落して話が分かりづらく、残ったフィルムも状態が酷く悪いため(断続的に音声がしばらく途切れる回も)、初心者にはお勧め出来ません。大瀬康一演じる祝十郎は藤岡弘のごとく撮影中に負傷したため初登場は何と第38回。

第1部から見ると第2部での内容、技術、規模の進歩は目を見張るものがあります。第3部マンモスコング編では日本のテレビ史上初めて巨大怪獣が登場。

第2部「バラダイ王国の秘宝」と第5部「その復讐に手を出すな」では一部の回で大阪ロケが行われています。最初期のテレビ映画なのに遠征ロケが出来たとは驚きです。この記事ではそのロケ地を紹介して行きます。「現在」の写真にちと古い物がありありますが、ご了承を。




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バラダイ王国の秘宝 第6回「花と拳銃」(昭和33年6月29日放送)より。GIFアニメ制作協力:ちゃうけさん
梅田ビル(昭和30年7月竣工、現存せず)から左へ阪神百貨店、阪急百貨店、大阪駅とカメラが回って行きます。

大阪駅前市街地改造事業誌」より。左下の真っ黒な影は阪急百貨店の屋上。昭和37年から平成5年までの梅田の移り変わりを航空写真で見る | 大阪市の北区をグルグル巡るブログの方が鮮明で分かりやすいのでお勧めします。



「その頃大阪では」のシーンは当時大阪一高いビルだった大阪第一生命ビル*2屋上からの撮影のようです。同ビル屋上には昭和28年日本初の屋上ビヤガーデンが開設されたそうですが、建て替え後の現ビルでは地下2階にあり、高層階に部外者が立ち入る事は出来ません。





大阪駅の3代目駅舎。昭和15年竣工。右奥に微かに大阪鉄道管理局(現在のヨドバシ梅田の場所)が見えます。



昭和20年代末〜昭和32年頃と思われる大阪駅の着色絵はがき(きーぼー所蔵)。
増築前の阪神百貨店屋上からの撮影?着色絵はがきはデタラメな色が塗られる事もありますが、これはバス、市電がしっかり実物通りの色で塗られています。大阪市営バスには今も緑色が使われていますね。

2008年10月15日撮影 3代目大阪駅の跡に建つアクティ大阪。大歩道橋から。当ブログのメイン読者層的には2006年放送のアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」の舞台としておなじみ。
涼宮ハルヒの憂鬱舞台の変貌(改)その5 アクティ大阪
涼宮ハルヒの憂鬱舞台の変貌(改)その6 阪神百貨店屋上の風景

[,left]昭和23〜24年頃、大阪駅屋上に立つ私の祖父の友人。後ろは阪急百貨店。私の祖父母が持つ阪急百貨店関連写真は新之介さん、ゴリモンさんのブログに許可を得て提供しています。


昭和27~28年の阪急百貨店 - 十三のいま昔を歩こう
昭和20年代の阪急百貨店屋上と新日本放送と - 十三のいま昔を歩こう
ゴリモンな日々 | 昭和27年の梅田阪急ビル
ゴリモンな日々 | 昭和37年にタイムスリップ!


阪神百貨店と阪急百貨店。

昭和37年7月公開の石原裕次郎主演映画「憎いあンちくしょう」に、そっくり同じアングルが登場します。阪神百貨店は増築工事中、阪急百貨店第6期(写真左端)増築が昭和36年に竣工しています。

平成17(2005)年9月25日撮影 ゴリモンさんからヒルトン大阪最上階35階からの写真をお借りしました。ありがとうございます♪現在の第一生命ビルの高さは88.78mだそうで、旧ビルの約2倍の高さになっています。
ゴリモンな日々 絶景かな♪ ヒルトン大阪35階

阪急百貨店を拡大。阪急百貨店から突き出ている阪急グランドビル(昭和52(1977)年竣工)の建つ場所は、昭和40年代まで阪急梅田駅のホームがありました。
旧梅田駅の映像は阪急電鉄開業100周年記念本「HANKYU MAROON WORLD 2010 −阪急電車のすべて−」付録DVDの記録映画と、山田洋次監督・なべおさみ主演映画「吹けば飛ぶよな男だが」(1カットですが)などで見る事が出来ます。

参考資料:アサヒグラフ昭和54(1979)年10月12日号「生まれた星が悪かった!〝未完成〟のまま消えて行く大阪駅」より。昭和51(1976)年に竣工したマルビルの屋上から撮影されています。

2010年11月8日撮影、3代目大阪駅は昭和55(1980)年に解体されて跡地に昭和58(1983)年アクティ大阪が竣工。第一生命ビル(左下)は平成2(1990)年建て替え竣工。阪急百貨店は平成18(2006)年から解体、去年9月に1期棟低層部(百貨店部分)、今年高層部(オフィスタワー)が竣工しました。阪神百貨店はあまり変わっていません。


マルビル屋上は無理なので最上階30階のレストラン「パパミラノ」でパスタを食べて撮影しました。

次はバラダイ王国の秘宝編 第5回「正義の逆襲」より大阪駅前の夜景。
祝十郎探偵(月光仮面の正体と思われるが、作中で真相は明かされなかった)の助手・五郎八(演:谷幹一)が東京の祝に電話をかけるため、近くに電話も無いし郵便局も閉まってるからとわざわざタクシーで大阪駅に行くという場面です。



途中大阪城と当時の国鉄城東線らしい電車が見える場所をタクシーが通るのだけど、なぜ大阪駅でなければいけないのだろう。

大阪駅前でまず阪急百貨店が映ります。カメラの前を通って行った人がこの後カメラが気になってかこちらを振り返ります。

カメラが右へ回り、阪神百貨店が画面をよぎります。ネオンサインの動きが面白い。

日本百貨店協会一〇年史」(昭和34年5月)より、月光仮面の頃の阪神百貨店。屋上右端に小さく「神戸行特急25分」の文字も確認出来ます。右の縦書きの「阪神百貨店」の看板から右と旧館の5階から上は増築された部分。

阪神百貨店の右隣に「アサヒビヤホール

最初の向きから180度弱右へ回転した所で、五郎八を乗せたタクシーが到着。車体に「大宝タクシー」「80円」と書かれています。大宝タクシーは公式サイトによれば大阪市に本社を置き、現在の保有台数は102台です。

「運ちゃん、長距離電話かけたいんだけどどっち行ったらいいかね?」「ああ、電話やったら向こうのかげですわ!」…何で長距離を強調するの?

大阪駅にて。「何しろこっちにも怪しいヤツが現れましてね。え?電話を盗み聞きされてないか?……(周りを見渡す)そりゃあもう絶対警戒してるから大丈夫ですよ!大丈夫ったらせんせ〜」

先ほどの運転手が実は敵「サタンの爪」の配下の変装で、しっかり録音されてる五郎八・・・・・・。何とオープンリールのテープレコーダーで。

月光仮面の頃より少し前、昭和32年頃の大阪駅前広場(きーぼー所蔵)。左から阪神百貨店(背後に梅田ビル)、アサヒビヤホール、第一生命ビル、大阪駅。当時の大阪駅1・2番ホーム(現3・4番ホーム。大阪環状線ホームは無かった)からの撮影のようです。2枚の写真を貼り合わせています。
この写真の裏面・ネガ袋と約6センチ四方のネガ2枚



阪神百貨店は増築工事中。よみうり報知写真館で「大阪駅前広場」で検索すると昭和31年9月19日に撮影された全く同じアングルの夜景を見る事が出来ますが、そちらでは阪神百貨店の増築工事は遠目には手つかずに見えます。

アサヒビヤホール。文献資料は見つからず。

右下には輪タク(自転車タクシー)が。物資不足のためタクシーの営業が困難だった終戦直後に普及し、昭和30年代まで見られたようです。
よみがえった市電 - 十三のいま昔を歩こう
↑こちらの他、よみうり報知写真館輪タクで検索すると大阪駅前で客待ちする輪タクの写真が見られます。

「輸送奉仕の五十年」(阪神電気鉄道、昭和30年4月)より増築前の阪神百貨店


阪神百貨店の入る阪神ビルは昭和12年3月着工、戦時統制のため当初計画より縮小し昭和16年に扇形の地下2階・地上4階が竣工。

昭和31年4月に工事再開、昭和33年3月に地上8階の当初計画全工事が完成。昭和38年6月、西側隣接地(旧アサヒビヤホール)に地下5階・地上11階・塔屋3階の新館増築が竣工して現在の規模になりました。

昭和36年6月に「阪神ビル」から「大阪神ビル」と改称。平成14(2002)年10月、外壁のリニューアル工事を行い現在の姿になりました。(参考文献:大阪駅前市街地改造事業誌)



以下は、再びバラダイ王国の秘宝 第6回「花と拳銃」より、東京へ向かう列車に乗るためタクシーで大阪駅に来た五郎八と不二子の場面。

右が二人を乗せたタクシーで、駅正面に向かって右ターンして行きます。

平成20(2008)年4月30日撮影 阪急百貨店の一部(昭和32年竣工の第5期棟)が当時のまま残っていました。カメラをもっと左に振らないといけないんだけど。この写真を撮影した年は昭和33(1958)年の月光仮面放送からちょうど50年でした。


平成20(2008)年5月26日撮影 アクティ大阪は旧駅舎より敷地を広く使って建てられていて、駅前広場は昔より窮屈です。この場所も今は増築用地に使われています。

タクシーを降りる五郎八と不二子。右にアサヒビヤホール、左隣に阪神百貨店、更に隣に曽根崎警察署らしき影が見えます。

平成20(2008)年5月26日撮影 アクティ大阪前に並ぶ黒塗りタクシー。阪神百貨店の左に見えるビルが昭和48(1973)年に建て替えられた曽根崎警察署。


今回の記事を読んだ人にはお前何歳だと思われる事でしょうwいや今更かな?TSUTAYA梅田堂山店には月光仮面DVD全巻があります。



CSのファミリー劇場では10月2日より月光仮面 HDリマスター版が放送中。バラダイ王国の秘宝編は12月には始まるでしょう。
ファミリー劇場 月光仮面 HDリマスター版
月光仮面、編集部来訪「幻の第1話の情報を」と呼びかけ 現代日本に苦言も  まんたんウェブ ウェブ魚拓
月光仮面何してんのw幻の第1話を探せ!キャンペーン(締め切り済み)が行われ、成果は年末年始の特番で明かされる予定だとか。


尖閣諸島沖の漁船衝突事件の映像流出について元内閣安全保障室長、危機管理専門家の佐々淳行氏は「正義の味方、月光仮面がいるんですよ。違反だろうが私は弁護したい。 」とコメントしていました(例えが古いと言われたとか)。月光仮面が熱烈な愛国者だからでしょうか。*3彼は政治的な事には口出さなそうだけど。

ファミリー劇場 月光仮面〜幻の第1話を探せ!〜
『月光仮面 HDリマスター版』及び「月光仮面幻の第1話を探せ!」キャンペーン 小柳大侍プロデューサーインタビュー



次回も大阪駅についてです。

*1:読売新聞1969年9月28日朝刊 テレビと共に タレント繁盛記52 ヒーロー登場(十七) など

*2:大阪第一生命ビルは昭和28年5月の竣工当時は高さ41m12階で日本一高いビルだったが、翌昭和29年には高さ43m11階の渋谷東急デパートが完成して抜かれている。参考:土地総合研究2008年春号 建物高さの歴史的変遷(その1) −日本における建物の高さと高層化について(PDF)

*3:マンモスコング編第5話「祖国のために」より月光仮面から国際暗殺団への呼びかけを引用してみる。

「国民を恐怖と不安のどん底へ突き落とそうとしている事は分っているのだ。だが、この月光仮面を初め、日本国民はそれほど愚かではないぞ。お前たちがどれほど日本を混乱に落とし込もうとしても、所詮は無駄に終わるだろう。
老若男女を問わず、日本国民は自分たちが生まれ自分たちを育んできたこの祖国を愛しているからだ。お前たちがどこの国から頼まれ、どれくらいの金を貰って動いているのかそれは知らない。
しかし、人間の幸福とは金や名誉のみによっては得られる物ではない!ましてや悪徳!自分の祖国を裏切り自分たちと同じ人間を不幸に落とし込んでどうして君たちが幸せになれようか!」